大判例

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東京高等裁判所 平成11年(う)1198号 判決

被告人 渋谷清

〔抄 録〕

論旨は、原判決は、原判示第一において、被告人が丸濱仁に対し覚せい剤約〇・三グラムを代金一万円で譲渡したと認定し、被告人から一万円を追徴しているが、被告人の本件への関与形態は、丸濱への譲渡ではなく、丸濱の譲受代理人又は共同譲受人というべきであって、原判決の覚せい剤譲渡罪の認定及びこれを前提とする追徴には、事実誤認、法令解釈の誤りがある、というのである。

そこで検討するに、丸濱仁の検察官調書及び警察官調書謄本等原判決挙示の関係証拠によれば、被告人は、パチンコ店等で何回か顔を合わせていた丸濱に覚せい剤を買わないかと持ちかけたところ、丸濱は、覚せい剤の購入先も方法も知らなかったものの興味を持っていたため、その気になって被告人に頼むようになったところから、本件まで二度ほど三、四千円あるいは一万円で覚せい剤を入手して丸濱に手渡し、その都度謝礼として若干量の覚せい剤等を同人から受け取っていたが、本件当日は、丸濱に電話で覚せい剤を買わないかと誘い、覚せい剤を入手しに行くため、同人の運転する車に同乗して三島市南町の原判示場所付近に行き、丸濱を車の中で待たせて、同人から受け取った一万円を持って同所付近の密売人(被告人の捜査段階における供述によれば、池田八郎なる者、丸濱には名前も知らせていない。)のもとに行き、密売人から一万円で覚せい剤約〇・三グラムを入手して丸濱の車に戻り、車内で前の時と同様被告人の分として少量(一、二回使用分)を取り分けて、その残りの覚せい剤を丸濱に手渡したことが認められる(なお、所論は、譲渡の事実を自認する被告人の供述調書及び原審公判供述は譲渡の事実を認めないと不利となるとの判断から意思に反して認めたものに過ぎないというが、その供述の経過、内容及び丸濱の供述等に徴しても、所論は首肯し難く、原判示認定にそう限度における信用性は肯定できる。)。

ところで、覚せい剤の譲渡を処罰するのは、覚せい剤の所持を転々とさせその害悪を拡散させることを防止するところにあるから、覚せい剤の譲渡には、覚せい剤の所有権の移転を目的とする売却行為に限らず、本件のように、買受人に代わって密売人から覚せい剤を買い受けた上、これを買い手に引き渡してその所持を移転させるといった、覚せい剤の密売を仲介してする形態の行為も含むものと解されるところ(最高裁第二小法廷昭和二九年八月二〇日判決・刑集八巻八号一二三九頁参照)、被告人は、丸濱に対し、被告人が密売人からあらかじめ丸濱から受け取っていた一万円で買い受けてきた本件覚せい剤(密売人においては、被告人がその買主であり、末端使用者が誰であるかは関知せず、丸濱が買主であるとの認識はなかったものと推認される。)を、丸濱から受け取っていた一万円(これは被告人と丸濱の関係では前渡し代金と見ることができる。)で譲渡したものと見ることができることにもかんがみると、被告人の本件行為を丸濱に対する覚せい剤の譲渡に当たるものと認め、丸濱から受け取った代金相当額一万円を追徴した原判決は、正当として是認することができるのであって、原判決に所論の事実誤認、法令解釈の誤りがあるとはいえない。

(龍岡資晃 植村立郎 波床昌則)

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